最近はどんどん古い有名映画がデジタルリマスター化されています。のはいいんですが、まれにその映画のファンから不評を買ってしまう例もあるのです。その一例がかつて発売された特撮怪獣映画「空の大怪獣ラドン」HDリマスター版のBDでした。総じて画質面ではDVD版を上回っていたのですが、特撮にはつきもののワイヤーが消されていたのです。特に福岡決戦シーンで怪獣ラドンの動きを補佐する形で全身に貼られていたワイヤーのほとんどが消されてしまっていたことは、そこまで目に焼き付いていてラドンの特撮シーンだと思っていたわたしを失望させました。本来は見えないに越したことは無い特撮の仕掛けではありますが、そこらへんは特撮ファンのサガ、悪しき性癖と言うしかありません。ただそう思ったのはわたしだけではないようで、書籍「キングコング対ゴジラ コンプリーション」の中でこの「空の大怪獣ラドン」BDのワイヤー問題に触れらて、「クレームが入った」と書かれているくらいです。そのせいか、BD発売後の「日本映画専門チャンネル」で「空の大怪獣ラドン」が放送されたときはワイヤーが復活していました。リマスターをやり直したとは思えませんので、ワイヤーありと無しと最初から両方作っていて、BDでは消した分を採用したのだと思います。
そして満を持しての「空の大怪獣ラドン」4Kリマスター版。先行して映画館で公開されていましたが、地元では一回だけの上映でかつ見に行ける時間ではなかったので、このBD版を楽しみにしていました。今度こそワイヤーが残されていることを信じて・・・いや、期待の仕方がおかしいのかも知れませんが、最初の上映時に限りなく近いものが理想、この思いが一番なのですよ。
見てみました。見事ワイヤーが見えるように直ってます。場面によっては補修前よりどうしてもワイヤーが見えにくくなっている箇所はありますが、「今度はなんとしてでもキレイに残す!」という補正担当者のこだわりを感じます。画質は前のHDリマスター版に輪をかけて細部が再現されています。それゆえに本作で多様されているマット画が分かりやすくなり過ぎた部分も多々ありますが、そこも古い映画の醍醐味ですから問題ありません。
画質があがったことにより、特撮はもちろん前編に登場する怪物・メガヌロンの臨場感がはるかに増しました。昔の映像だとどこかチャチっぽく見えたメガヌロンの襲撃シーンですが、動きが良くなってまさに怪物とい生物間を伴って襲い掛かってきます。その効果はもちろんラドンの活躍する特撮シーンではより顕著に浮き上がります。わたしは過去、多分映画ソフトの中で一番「空の大怪獣ラドン」を本数多く買い、視聴してきました。劇場でも、機会さえつかめれば何度も見に行きました。その中で一番本ソフトがリアルな特撮が堪能できます。
本作の最大の特徴がミニチュアシーン。本作の破壊は他の作品と違い、火薬に頼っていません。建物は火薬で爆発させれば派手ですし、建物の残骸も炎で見えにくくなるのでごまかしの利く見栄えのする破壊シーンが比較的撮りやすくなりますが、本作では徹底的に風や衝撃波による破壊にこだわっています。しかし、撮影スタジオ内で発生できる風の量などたかが知れています。そのため、しっかり形を形成できる程度の"丈夫さ"と風で吹き飛ぶ"もろさ"、風で飛ぶ"軽さ"と崩れるリアルさを体感できる"重さ"という矛盾を全部つぎ込み、かつ映っていない部分まで含めて細部まで舞台となる福岡の街を再現する、というとんでもないレベルのミニチュア都市の作成が必要だったのですが、本作スタッフはそれをやってのけました。そこまでやっているのに、途中で思いついたのか、有名な「鏡を使ってビルの中で逃げる人々を合成無しで表現」などという一発アイディア撮影までやっているのですから、妥協を許さない緊迫した現場であったことがうかがえます。わたしはもう現代では再現不可能な特撮として「ゴジラVSキングギドラ」を上げていますが、この「空の大怪獣ラドン」も若干方向性は異なりますが、やはり現代では再現不可能な特撮が全身で体感できる作品の一本と言っていいでしょう。
いま改めて見返すと、「空の大怪獣ラドン」の破壊シーンの特徴は看板へのこだわりにあるようです。のちの特撮作品だと、看板は主に協賛企業のものだけを目立たせるようにし、あとは削除か変更して少し架空の街にしてしまうやり方が定着しています。松坂屋デパートに「ゴジラ」で無許可で壊して怒られた、という伝説がありますがそこらへんも影響しているかも知れません。が、「空の大怪獣ラドン」ではどう取り扱ったのかまさに「商店街」というほどの大量の看板が登場。それを際立たせるためか配慮か、わざわざ念入りに看板を踏みつぶす動きを戦車にさせているほどです。再現しきっていないのはスポーツセンター近辺くらいでしょう。また、ついに火災が発生して街が火の海に包まれたあとでも看板やネオンだけは最後まで残り続けていました。こうして中途半端に華やかな街の跡を残すことで、一瞬の出来事の後味を残す印象が強くなっています。特に最後の「森永ミルクキャラメル」のネオン看板は当然協賛企業として目立たせるが第一でしょうが、どこか「非日常的な現実」に引き込まれるような演出に使われてしまったので、アレを見た後あまりミルクキャラメルを買う気にはならないでしょうねぇ、多分。
今回はPCの「PowerDVD 24」で見たのですがフレーム補完の技術が良く効いていて、細部の動きがよりリアルに感じます。失われたFluid Motion Videoほどではないですが、本作との相性はいいので一度試してほしいです。
ちなみにわたしは大変無知です。それを改めて今回知りました。うちのUSB TYPE-Cでのディスプレイ接続環境だとBD見られなかったんです。昨年miniPCを買った際にサイズの合うモバイルディスプレイを買ったですが、USB TYPE-Cだけでディスプレイが全部表示され、UEFIも使えたので「これでいいじゃん」ってずっとそのまま使っていて、今回初めてBDを再生させて気が付きました。幸いモバイルディスプレイ自体はHDCPに対応し、miniHDMIもついていたのでつなぎなおしでBDを再生することは出来ました。でも、miniとは言えHDMIケーブルって太いし、電力供給用にUSBケーブルをもう一本つながなきゃならないし、USB TYPE-Cで全部できた方が楽なんだけど、まぁしょうがない。一年以上も気が付かないわたしがバカなのよ。
追記:環境によるらしい、という指摘をいただいたので、本文少し修正しました。
本BDに唯一難を言うところがあるとしたら、予告編冒頭のモノクロ部分が補修されず、ノイジーなままだったこと。多分わざと古臭さを出すためにノイズを取らなかったんだろうけど。このモノクロ部分、以前は予告編が現存しない作品「ゴジラの逆襲」の予告編代用品として使われていて、ゴジラ予告編集なんかを見る時にしょっちゅう見ていた部分なんですよ。現在は「ゴジラの逆襲」では特報映像が復元されているので代用品は必要なくなっていますが、それだけに補修されたモノクロ冒頭も欲しかったですね。
「空の大怪獣ラドン」より一足早く届いていたもう一本もついでに紹介。もちろん特撮映画の4Kリマスターで、これも前にも書いたわたしの好きな作品、「地球防衛軍」です。
「空の大怪獣ラドン」があくまで怪獣映画なので時代が経っても楽しめるのに対し、こっちは「空想科学映画」なのでセンスが嵌らない人には嵌らないけど、堪らない人には堪らない映画。今回のリマスター版でより伝わってきたのは画質よりもむしろ音質。クライマックスの決戦シーンで流れる伊福部マーチが体にしみわたってきてただただ最高! の一言。